優しい手①~戦国:石田三成~【完】
兼続が用意した白い打掛けは前回と同様小国が傾くほど価値のあるもので、

もちろんそんなことを知らない桃は打掛けを羽織り、着替えを済ませて湯殿を出ると…


「桃」


「あ、三成さん…」


入り口に寄りかかって腕を組んでいた三成が身体を起こし、手を差し伸べてきた。


「行くぞ、もう始まっているみたいだ」


「え、そうなの!?私の分まで残しておいてくれてるかな…」


相変らずの食道楽な発言に思わず三成が笑んだ。

手を繋いだままいそいそと歩き出す桃に引っ張られながら大広間へと急ぎ、またはじめて桃の素直を見た女中や家臣たちは、可憐でいて活発な印象の桃に驚きながら道を譲る。


「あ、やばい!こんな短い髪だとこんな上品な打掛似合わないよね?!私ちょっとお化粧とかして…」


「そのままで構わぬ。…謙信もそれを望むだろう」


「え…うん、じゃあそうしよっかな」


――謙信との間で未だに揺れ動いている桃を責めるつもりはない。

謙信の名を出す度に顔色を変えることも…仕方ないと思う。

だが、謙信と話している間に、自分の名が出たら…


同じような反応をしてくれているだろうか?


「三成さん?」


がやがやと賑やかな大広間の前で立ち止まった三成の手を引っ張ると、我に返ったような顔をして襖を開いた。


「桃姫!」


「あ、景虎さん!」


――部屋の中が一瞬静まり返った。


桃の存在…

兵たちに“夜叉”と呼ばれながらも実際は可憐な女子で、上背のある景虎に駆け寄ると袖を引いて皆を爆笑させる一言を放った。


「私の分のご飯、残ってる?!」


「…ふふっ」


謙信が噴出して沈黙を破り、次いで誰もが腹を抱えて笑った。

三成も肩で笑いながら中へと押しやった。


「もちろんです!海の幸山の幸取り揃えております、どうぞこちらへ!」


兼続が案内したのは、上座の謙信の隣。


一瞬背後の三成を振り返ったが、相変わらず三成は助言してくることなく自身の考えで動け、と無言の圧力をかけてくる。


「は、はい…」


謙信と目が合い、ふっと微笑んだ。


「似合ってるよ。さあ、ここにおいで」
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