優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信が部屋に戻ると…桃は居なかった。
「あれ?どこに行ったのかな?」
「あ、あの…殿…」
兼続がその場に膝をついて深々と頭を下げた。
「その…桃姫が“どうしても”とおっしゃるので…」
その時…
「おや?」
襖の隙間からセーラー服を着た桃が猛烈なスピードで雑巾がけをしている姿が目に入った。
「ただで厄介になるわけには、と申されまして…御止めしても聞き入れてくださらないのです」
ひょこっと顔を出して去って行った方向へ目を遣ると、もう目の前まで桃は戻ってきていて、目が合うと笑顔で額に浮かぶ汗を拭いた。
「お世話になってる間はお掃除くらい手伝うからいつでも言って下さい!」
「ほんと?じゃあ私の部屋も綺麗にしてもらおうかな」
「謙信さんの部屋は元々綺麗じゃん!…あ、ご飯の匂い!」
朝餉の匂いを嗅ぎつけた桃が脱兎の如く手を洗いに行って、息を切らしながら戻ろうとした時、
廊下で三成とばったり会って、背の高い三成を見上げて腕に軽く触れた。
「三成さん、おはよ!」
「ああ。…昨晩はまた酔っただろう?今後はやめてくれ」
「でも朝までぐっすりだったし、二日酔いもないし。元気です!」
「…謙信と寝たのか?」
「え!?う、ううん、寝てない、よ?どうして?」
「…別に」
咄嗟に嘘をついてしまって気まずい思いをしながら部屋に入って座ると、聴いたことのある声がした。
「朝餉をお持ちいたしました」
「お園…」
三成が名を呟く。
声だけは覚えていたお園という、三成がかつて愛した女の名。
「…あなたが…」
「…」
細すぎる身体。
いかにも病弱そうな色の白さで、そしてものすごく美人だ。
「…」
「……」
桃とお園が黙り込んでしまい、マイペースな謙信が箸を手に桃の膳から漬物をさらっていった。
「あ!私のお漬物!」
「よそ見してると無くなるよ。ほらほら」
「駄目!これは私の!」
――謙信の優しさに気付いていた。
気遣ってくれていることが、嬉しかった。
「あれ?どこに行ったのかな?」
「あ、あの…殿…」
兼続がその場に膝をついて深々と頭を下げた。
「その…桃姫が“どうしても”とおっしゃるので…」
その時…
「おや?」
襖の隙間からセーラー服を着た桃が猛烈なスピードで雑巾がけをしている姿が目に入った。
「ただで厄介になるわけには、と申されまして…御止めしても聞き入れてくださらないのです」
ひょこっと顔を出して去って行った方向へ目を遣ると、もう目の前まで桃は戻ってきていて、目が合うと笑顔で額に浮かぶ汗を拭いた。
「お世話になってる間はお掃除くらい手伝うからいつでも言って下さい!」
「ほんと?じゃあ私の部屋も綺麗にしてもらおうかな」
「謙信さんの部屋は元々綺麗じゃん!…あ、ご飯の匂い!」
朝餉の匂いを嗅ぎつけた桃が脱兎の如く手を洗いに行って、息を切らしながら戻ろうとした時、
廊下で三成とばったり会って、背の高い三成を見上げて腕に軽く触れた。
「三成さん、おはよ!」
「ああ。…昨晩はまた酔っただろう?今後はやめてくれ」
「でも朝までぐっすりだったし、二日酔いもないし。元気です!」
「…謙信と寝たのか?」
「え!?う、ううん、寝てない、よ?どうして?」
「…別に」
咄嗟に嘘をついてしまって気まずい思いをしながら部屋に入って座ると、聴いたことのある声がした。
「朝餉をお持ちいたしました」
「お園…」
三成が名を呟く。
声だけは覚えていたお園という、三成がかつて愛した女の名。
「…あなたが…」
「…」
細すぎる身体。
いかにも病弱そうな色の白さで、そしてものすごく美人だ。
「…」
「……」
桃とお園が黙り込んでしまい、マイペースな謙信が箸を手に桃の膳から漬物をさらっていった。
「あ!私のお漬物!」
「よそ見してると無くなるよ。ほらほら」
「駄目!これは私の!」
――謙信の優しさに気付いていた。
気遣ってくれていることが、嬉しかった。