優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「君も同席するといい」


「え…、私も?」


突然謙信がそう言って腰を上げた。

その瞳は見たこともないくらいに真剣で…兼続と長秀が慌ただしく席を外すと場を整えるために居なくなる。


ただ桃一人だけがきょとんとしていて、隣の三成を見るとやはり同じようにいつも以上に厳しい顔つきをしていた。


「家康は君を見に来たんだ。何も話さなくていいから、とりあえずその場には居て欲しい」


「あ…、はい…」


――桃はすぐ部屋に戻り、いつものようにセーラー服を着た。


もうこの時代に居るべき人間ではないことはばれているのだろう。

だからもう隠すべきことではない。


「よし!」


顔を両手でぱんと叩いて部屋を出ると…


「桃」


「あ、三成さん…」


待ってくれていたのか、すぐに手を繋いでくると、足早に歩き出す。


「…三成さん、あんまり話しちゃ駄目だよ、あの人は…あの人に三成さんは…」


「もう歴史は狂っている。俺がそなたを抱いてからさらに狂っただろう。元々俺は家康が好きではないし、会話は交わさない。その場に居るだけだ」


――歴史通りであれば、三成は家康の命によって関ヶ原の戦い後、処刑されてしまう。


…会わせてはいけないのに。

しかも、こんな所で――


「ああ、来たね」


中へ入ると…上座に座った謙信の前には、正装をした若い男が座っていた。


「ああ、こちらの姫が桃姫ですね?これはお可愛らしい」


…穏やかな笑みを浮かべてはいるが…何か底知れないものを感じて、桃は隣に佇む三成の袖を引っ張った。


「…大丈夫だ。謙信の傍へ行け」


小さな声で耳打ちをされ、桃は家康を大きく迂回して謙信のすぐ近くに座り、不安げに見つめたが、


肝心の謙信は先ほどのような鬼神の如き表情ではなく、いつもの茫洋とした柔和な笑みを浮かべていて、桃があからさまにほっとする。


「これはこれは…桃姫におかれましては謙信公のご正室になられるとか」


「ふふ、詮索はいいから本題に入ってもらおうかな」


会話を一刀両断して肘付に頬杖を突いた謙信に、家康は緊張で全身汗に濡れていた。
< 364 / 671 >

この作品をシェア

pagetop