優しい手①~戦国:石田三成~【完】
“そろそろ兼続が戻ってくるから”


――謙信がそう言って、立ち上がった桃の身体に、丸まってくちゃくちゃになった浴衣を丁寧に着せた。


「ふふ、これじゃ完全に間男だね。私はいつでも君を想っているよ」


「謙信さん…」


もう謙信には随分前から裸を見られていたので、着せてくれる謙信の綺麗で細長い指を見つめていた。


「このことを三成に話すかどうかは君に任せる。私は君を諦めない。それは三成に言うつもりだから」


「…うん。ねえ謙信さん…死なないでね?三成さんも謙信さんも、死んだりしないで…。戦なんかしてほしくないよ…」


「桃…私たちは武将なんだ。戦いに喜びを覚えてしまう性分なんだよ。だけど戻って来る。必ず君の元に」


伏し目がちのまま帯をしめてくれて謙信も立ち上がり、桃が見上げる形になると、ぎゅうっと抱きしめて、一瞬の逢瀬を惜しむ。


「君を抱きたくて仕方がない。…三成を今すぐにでも斬ってやりたいよ」


「駄目だよ、二人とも喧嘩しないで。…ん、謙信さん…っ」


顎を取って上向かせられ、やわらかく重なってきた唇に陶酔してしまっている自分を感じながら、音の鳴る唇の音にまた熱が高まる。


「ごめん、触らずにはいられないんだ。さあ、みんなで朝餉を摂ろうか」


――二人でまた座り、何だか気恥ずかしくなりながら俯いていると…


「…桃」


「あ、三成さん」


兼続と一緒に三成が入ってきて、今日はじめて三成と顔を合わせた両者は…一気に顔色を真っ赤にした。


「やれやれ…あてられるのは勘弁してほしいな。私は傷心の身だからね」


三成が横に座り、兼続が謙信にまとわりついている間にそっと手を握ってきた。


…大好きな、優しい手で。


「身体は…大丈夫か?」


「なんか腰とかお尻とか脚とか…全部痛いんだけど。三成さんのせいだからね」


「す、すまぬ…。…己を抑えられなかったんだ」


律儀に頭を少し下げた三成の手を握り返すと…


「殿、一大事にございます!」


駆け込んできた安田長秀の声は緊張に震え、顔は強張っていた。


「どうしたの?」


「徳川家康が…!」


来た。
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