優しい手①~戦国:石田三成~【完】
髪をかきむしりたくなるくらいの緊張…


――家康は何故だか短く刈り込んだ髪を無性にいじりたくなるのを堪えながら、越後の城主…最強の戦上手の男、上杉謙信の前で畏まっていた。


…目的は桃姫。

桃姫を献上すれば、次期天下人となる秀吉を差し置いて自分が天下人になれる。

信長はそう確約してくれた。


その肝心の桃姫は、噂通り可憐でいて芯が強そうな瞳をしていて、脚を出した奇妙な格好をしていた。


そして目が合うとびくっと身体を揺らせて、じっとこちらを見つめている謙信の袖を引っ張りながら顔を隠している。


「…私がここまで来た理由は謙信公、あなたが一番ご理解していらっしゃるはず」


「そうだね、尾張から越後まで帰って来るまで何回襲撃してきたかな。私の姫の目を一時的にでも盲目にさせたことは絶対に許さないよ」


大量の唾が競り上がって来て、思わず喉を鳴らしてしまった。

この男には戦では絶対に勝てない。

だから策略を巡らせて、掘った穴に貶めるしか方法はない。


しかも少し離れた左側に座して、ずっとこちらを監視するように見ているのは…豊臣秀吉の懐刀…参謀の石田三成。

謙信と組んでいるのか?

そうだとしたらこれは裏切りだ。


「桃姫を傷つけるつもりはありませんでした。清野が勝手にやったことです」


「清野さん?」


知った名前が出てきてつい桃が声を上げると、謙信は桃の腰を抱いていきなり膝の上に乗せて抱き上げると、白い肌に頬を寄せた。


「私の姫はまんまと騙されてしまっていたけれど、そこも可愛いところ。清野にはきついお仕置きをしたから、もう私たちの前には現れないだろう」


「それが…そうでもないのです」


――家康はほくそ笑んだ。

謙信も桃も、三成も怪訝そうな顔をしていて、ぱんと両手を打ち鳴らせると…

襖がすっと開いて、床に額がつきそうなほどに頭を下げている着物姿の女の姿が、在った。


「清野さん…!?」


「清野はもう忍者としては使えません。あなたが、そうさせたのです」


「え?謙信さん…?」


――清野が顔を上げる。

相変らずの儚げでいてやわらかい美貌は悔恨に少し歪み、謙信を見つめていた。
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