優しい手①~戦国:石田三成~【完】
身体に沢山唇の痕が残っているので、女中の手伝いをやんわりと断ると、1人で時間をかけて綺麗にして、そして真っ白な浴衣を着て三成の部屋に向かっていると…


「おお、桃姫!」


障子を開け、月見酒を飲んでいた政宗とばったり出くわして、素通りすることもできずに桃は政宗の隣に座った。


「まだみんな決起会やってるんじゃないの?政宗さんも主役みたいなものでしょ?」


「奴らは元々敵なのだから馴れ合わぬ。同盟は一時のこと故、作戦がわかればそれでいい」


桃が手にしていた串の団子に気が付いた政宗が肩を竦めながら盃を呷る。


「三成と食すのか?あいつ…俺の桃姫に手を出しおって。関が原で闇に乗じて斬ってしまおうか」


「やめて!冗談でもそういうのは駄目だよ、言わないで!」


腕に縋り付いてきた桃の身体を引き寄せてご満悦になった政宗は、ぽつりと呟いた。


「そなたが俺の正室になるか謙信の正室になるか…そうなれば越後とは今後も同盟国であってもいいと思っていた。だが三成は尾張の者。あ奴の立場、今回は非常に悪いぞ」


尾張の者でありながら、上杉軍に従軍する石田三成。

そのことは恐らくもう秀吉や信長の耳に入っているだろう。


暗殺話は冗談ではなく、三成は警戒しなければならない。


「…怖い顔やめてよ」


「ん、ああすまぬ。なあ桃姫。俺の素顔…見たくはないか?」


「え?でも正室になる人にしか見せないって…」


「いや、そなたに見てもらいたい。俺もいつ散るかわからぬ命だからな。見たいのかそうでないのか、どっちだ?」


いつも明るい表情の政宗の顔は真顔だった。

だから、頷いた。


「よく見ておけ」


――眼帯に手がかかり、紐が外されて…するりと床に落ちた。


桃は呆気に取られた。


閉じられた右目。


恐らく開いていればさらにこの男はかっこよかったかもしれないが、隻眼故の美しさと力強さ――


ぽうっとなってしまった桃に顔を近付けて素早く唇を奪うと、凛々しい表情のまま月を見上げる。


「帰って来たらまた見せてやる。そなただけに」


「政宗さん…」


それぞれの覚悟がある。

それぞれの――
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