優しい手①~戦国:石田三成~【完】
慌ただしく大広間へ戻ると、謙信の姿はなかった。


すでに武田の重臣と挨拶を交わした後で夜の決起会までの間は毘沙門堂に籠もる、と言い残し、お堂の前には兼続が番をしていた。


「兼続さん…」


「おお桃姫。殿に御用ですか?ただ、今は…」


「兼続、通してあげて」


中から謙信の声がして、桃は三成の手を離すと、見上げながら…顔を赤くして、耳元で囁く。


「今日の夜…三成さんの部屋に行きます」


「…ああ。待っている」


この時代に来た時から親切にしてくれて、傍に居てくれて、愛してくれた人。


三成の手も…謙信の手も、離せない。


「桃、入ります」


「ああ、おいで」


中へ入ると蝋の溶ける匂いがして、謙信が毘沙門天と語り合っていることがその雰囲気で伝わってくる。


ちょっと離れた場所に桃が正座をすると、それまで座禅を組んで瞑想していた謙信が身体ごと振り返り、ぽんぽんと膝を叩いた。


「ここにおいで」


「え、いいです…」


「でも私はもう明日飛騨に行ってしまうんだよ?君にしばらく触れられないから、触らせてほしいな」


…行ってしまう。

総大将として関ヶ原に乗り込むからには、謙信は最も命を狙われる者として総攻撃をかけられるだろう。


――桃は大人しく謙信の膝に抱かれ、胸にもたれかかった。


「行っちゃうんだね。お姫様たちはみんなこうしてお城で待っていて不安じゃないのかな…」


「不安だと思うよ。だけどまた会えると信じているから、再会した時の喜びも倍になる」


ゆっくりと重なってきた唇に応えて舌を絡めると、首筋に顔を埋めてきた。


「帰って来たら君を気絶させてしまいそうなほどに抱くからね。こんなこともして…、あんなこともして…」


「や、やだ…、そんなことも…!?」


聞いているだけで身体が熱くなるのに、耳に息を吹きかけられてぎゅっと目を閉じた桃の髪に指を埋めて胸に抱き寄せた。


「不安にならないで。私を討てるたった1人の男は逝ってしまった。だから私は誰にも敗けないし、殺されない。…今夜は三成の所でしょ?時には私を思い出してね」


――いつも思い出している。
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