優しい手①~戦国:石田三成~【完】
時は前後して――


幸村は三成が崖から突き落とされる光景を目の当たりにして…ただ叫んだ。


「三成殿ぉーーー!!!」


「見られたからには貴様も生かしておけぬ」


目の前が真っ赤になり、幸村は愛用の三本槍を構えると、刀を抜いた清正に襲い掛かった。


「おのれ!!」


「どこの何者かは存ぜぬが、裏切り者は我が軍には要らぬのだ!」



鬼神真田幸村。


息巻く清正と、酔いながらも三成に斬りつけて崖から突き落とした正則からにじり寄られてもこの鬼神には焦りは一切なく、確実に攻撃を避けては華麗に槍を振り、清正のわき腹を貫いた。


「うぐぅ…っ!」


「清正!」


酔いが覚めたような表情になり、正則が素早く身を翻すと…


清正を置いたまま背を向けて逃走し、幸村はその様を鼻で笑うと倒れ込んだ清正に無慈悲な視線を遣って静かに告げる。


「このこと、秀吉公は何も知らないのだろう?貴公らの独断か」


「…そ、うだ…。殿は一切、関係な……」


…目を見開いたまま、絶命した。


すぐさま崖に駆け寄って下を覗き込んだが…

何とか緩やかな傾斜の影を選び、何度も転びそうになりながら駆け降り、そして大量の血痕を発見した。


「三成、殿…?」


周囲に気配はない。


生死もわからず、ここは秀吉の本陣近く。

大声で名を呼んで探し回るわけにもいかずに立ち尽くしていると…


「そなたは何者じゃ!」


「!」


振り向くと…そこには秀吉と、その部下らしき男が立っていた。


「あなたは…豊臣秀吉公…」


「その顔見たことがあるぞ。真田幸村か。何故ここに?…三成の所在を知っておるのか!?」


馬から降りて肩を揺らしてきた秀吉に、幸村は淡々と告げた。


「崖上に清正の骸が。拙者が斬りました。首謀者は清正と福島正則。…正則は逃亡し、敗走中。秀吉公、三成殿は…正則に斬られ…」


顔を歪めた幸村に秀吉ががっしりと抱き着く。


「共に捜そう、早う治療せねばこの出血は危ない!」


「かたじけない…!」


桃姫――


拙者は、あなたに恨まれてしまうかもしれません――
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