優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「ちょっと三成さん…っ、手、離してよ」


「誰に狙われるともわからぬ。大切な姫をのこのこと無防備に城から連れ出す貴公の気が知れぬぞ」


「あ、私のこと?そうだね、自分の力をちょっと過信しすぎちゃったかな」


珍しくふてくされたような表情をして背を向けると、弓を手にして一気に絞り、放った。

真ん中に命中した矢の正確さに誰もが唖然となり、桃は三成からまだ手を握られていて、それどころではない。


「信用してるから危ないことなんか起きないから」


「俺は注意は怠らない。…戻るぞ」


――謙信の許しもないまま桃を軽々と抱き上げてクロに乗せ、もう乗ってもらえないと思っていたクロは三成が桃の後ろに騎乗するととんでもない速さで走り出した。


「謙信さん…っ!」


「先に戻っていて。すぐ追いつくから」


声色が幾分か下がっていてそれが不安だったが…謙信の代わりに幸村がすぐに追いついて来て併走しながら注意を促す。


「三成殿、殿のお許しなく…」


「2人きりにはなっていない。そなたが居るだろう?」


「それは…そうですが…」


背中に三成の固い胸があたっている感触がしてまた必死に唇を引き結んで溢れそうな感情に耐える。


この腕に抱かれた数瞬の時――


あの時私が選んだのは…あなたの手なのに――


「…離して。1人で乗れるから」


「駄目だ。俺に寄りかかれ」


耳元で囁かれて、桃の表情が歪んだのを見た幸村が馬がぶつかりそうな位に馬を寄せると瞬きする程の間に桃を攫い、自らの馬に乗せた。


「きゃっ!」


「申し訳ありません。あなたが…泣いてしまいそうだったので」


優しい声で、優しい手つきで腰に腕を回されて唇を震わせながら俯いた時――三成が立ち塞がるようにしてクロを眼前に止めて、幸村を睨みつけた。

…いや、桃を。


「俺はそなたを愛しい、と想っているままだ。そしてそのまま尾張へといずれ戻る。別離は事実だが、桃姫…そなたから俺は離れぬ。…離れられぬ」


「やめて、やめて、やめて…!“さらばだ”って言ったのは三成さんだよ!?私も言ったけど…もう、やめてよ…!」


馬の腹を蹴り、逃げ出した。
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