優しい手①~戦国:石田三成~【完】
追って来る。

どこまでも、どこまでも――


もう惑わせてほしくないし、惑わせたくない。

それをわかってほしいのに…

記憶もないのにどうして追ってくるのか?


「桃姫…」


「早く謙信さんに会いたいよ…。もうヤだ、三成さんに振り回されるの、ヤだよ…」


――また泣きそうになった時城に着き、馬から飛び降りると一目散に湯殿に駆け込んでセーラー服を脱ぎ捨てて、湯の中に飛び込んだ。


そうしながら大声で泣いて…

だから、ここまで追ってきていることに気付かなかった。


「桃姫」


「っ!?三成さ、やめて、あっち行ってよ!」


躊躇せずに中へ入って来る。

両手で胸を庇い、身体を丸めて裸を隠すとがむしゃらに叫んだ。


「やだ、もうやだ!なんにもしないで、なんにも言わないで!」


「…そなたのその肌…手触り…思い出しかけている。桃姫、俺はお園とは復縁などせぬ。だが…戦が終われば尾張へ戻る。それまでは、ずっと傍に居る。そなたを守り続ける。それだけは、許してくれ」


服を着たまま湯の中に入って来るのが波が身体にぶつかってくることでわかって、肩に…大きく優しい手が乗って、そのままぎゅっと抱きしめられて――


「三成さん…駄目、離して…っ」


「何故そのように泣きじゃくる?俺が…忘れられないからだろう?」


「わ、忘れるもん!すぐに忘れるに決まってるよ!謙信さんが、忘れさせてくれるもん!」


「…そなたの心の片隅にはいつも俺の姿があるはずだ。俺の手や身体…忘れられないのだろう?」


――三成の愛し方…謙信とは全く違う。

手つき、かけてくる言葉、表情…

全部全部、まだ覚えている――


だが桃は抱きしめられながらも嗚咽を漏らして泣きじゃくり、三成に振り向かされて見つめ合った。


「別離を選んだのは間違いだ。俺はそなたを傷つけた。桃姫…いや…桃」


久々に“桃”と呼ばれて身体が震えると唇が強引に重なってきた。


「ん…、だ、め…っ!」


「俺は、そなたに触れるのを止めぬぞ。これからは…“桃”と呼ぶ」


その激しさが嬉しくて、せつなくて…

舌を絡められながら、三成に堕ちてゆく――
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