優しい手①~戦国:石田三成~【完】
飲まず食わずの謙信のために、桃が手作りの夕餉を作り、付き添っていた三成の顔をやや不満げにさせた。


「…俺には作ってくれなかったのに…」


「えっ?あ、えっと、明日でいい?明日三成さんのために作るから」


「ああ、それでいい」


満足げな顔になり、笑いかけると“1人で行きたいから”と言って、お盆に乗せた料理を毘沙門堂の前まで運んだ。


「幸村さん、あの…これ…謙信さんに食べてもらいたくて持ってきたの」


「それは殿もお喜びになられます」


「え…、入って…いいの?」


「“入れるな”とはおっしゃらなかったので大丈夫ですよ」


まさか入れるとは思っていなかったので、躊躇していると幸村からやんわりと背中を押されて中へと入る。


――そこには、毘沙門天の像の前に座して静かに見上げている謙信が居た。


“桃以外の天女を私に”


さっきそう言われて、どれだけ悲しい想いになったか――


勝手に自分が傷ついただけなので、その想いは隠して謙信の斜め後ろに座り、気付いてもらうのを待っていると…


「ごめんけど食欲ないんだ。」


「食べてくれるまで離れないよ。…私に離れてほしいんでしょ?だったら食べて」


「…ふふ、君は策士だね」


身体をこちらに向けて座り直した謙信は…相変らず優しい笑みを浮かべていて、箸を手にしたその長い指をじっと見つめた。


「すっごく食べにくいんだけど」


「覚えておくの。何もかも覚えておきたいからちょっとだけ我慢してほしいの。…駄目?」


――蝋燭の灯りが堂内を照らし、謙信の美貌をゆらゆらと揺らして…見つめ合う。


「そうだね、私も君とのことは永遠に忘れないよ」


「うん。じゃあ…戻るね」


にこっと微笑んでくれて立ち上がった時、スカートの裾を踏んでしまって態勢を崩してよろめいた。


即座に謙信が立ち上がり、桃を抱きしめて支え、心臓が爆発しそうになる。


「……桃…」


熱い息が耳にかかった。

ぞくっと震えて見上げると、すぐそこには謙信の唇があった。


「…さあ、もう行って」


身体が離れてゆく。

心臓が、痛んだ。
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