優しい手①~戦国:石田三成~【完】
とぼとぼと戻って来た桃を迎えたのは、三成だった。


「ちょっとだけ食べてくれたよ」


「そうか。それよりそなたの気落ちが気にかかる。元気ではない桃など珍しいからな」


「ひどいっ。三成さん、記憶が戻ってからなんか意地悪になった!」


気落ちの激しい桃の手を引くと隣に座らせて、頭を撫でた。


「謙信は意外と俺より難しい男だ。優しいと見せかけておいて冷たい部分もある。…放っておけばいずれ元の態度に戻るだろう」


「そっかな…。ねえ三成さん…眠るまで手を繋いでてほしいな」


「わかった」


同じ床で共に眠ることはもうないだろう。

せめて眠るまでは傍に。

…横になった桃の手を握り、せめてもの温もりと愛を伝える。


――その頃幸村は桃の部屋を移すために、毘沙門堂の前で兼続と立ち話をしていた。


「桃姫がお部屋を移したいとおっしゃっておられます。兼続殿、関係性の変わった今となってはそれが自然です。どうか」


「そうだな、俺もそう思う。殿にはこの件お耳に入れずとも良いだろう」


「何の話?」


何時間ぶりか…ようやく謙信が姿を見せて、空になったお盆を兼続に手渡しながら首を鳴らした。

即座に2人は片膝をつきながら、桃の部屋を移す件を伝えると…


「…駄目。桃の部屋は私の部屋の隣でいい。これからもずっと」


「ですが殿…殿が冷たくされるので桃姫は傷ついておられます。拙者は…桃姫の笑顔がまた見たいのです」


「私もね、どうしたらいいかわからないんだよ。その件は無しで」


「はっ」


――ゆっくりとした足取りで自室に戻り、隣室の桃の部屋と自室を隔てている襖をそっと開けると…


桃は、謙信の羽織を握りしめて、眠っていた。

その羽織についている香りは…自分の乳香だ。


「…桃…そんなことをしてはいけないよ。私を期待させて、君はどうするつもりなんだい?私から去っていくのに。私にどうしろと…」


「ん……、謙信さ…」


名が漏れる。

余計に愛しさが増して、唇を噛み締めた。


「桃…君を離したくないよ」


少し開いた唇に、そっと唇を重ねる。


もう触れてはいけないのに――
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