優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成が桃の部屋を訪れた時――


桃は昨日とは打って変わって元気いっぱいで、思わず拍子抜けして立ち尽くした。


「あ、三成さん、おはよう!あのね聞いて、謙信さんとね…」


「早いね、いつもこんな早くに桃の部屋を訪れてるの?夜這いならぬ朝這いかな?」


――今まであれほど桃を避けていた謙信が隣の部屋からひょっこり顔を出して、三成は怪訝そうな表情を浮かべ、桃を見下ろすと…


相変らず笑顔に溢れた顔で、いつものランニングをしようとTシャツと半パンという動きやすい格好にすでに着替えていた桃が立ち上がり、手を引っ張ってきた。


「謙信さんと仲直りしたの。私が帰るまではずっと傍に居てくれるって言ってくれたの」


「…そうか。それは良かったな」


「本当にそう思ってる?“ずっと傍に居る”だよ?」


意地悪気な笑みを浮かべている謙信は挑戦的な態度を滲ませていて、そういう機微に聡い三成は鼻を鳴らした。


「そなたが子供じみた独占欲で桃を避けていた間ずっと傍に居たのは俺だぞ。出遅れているとは思わぬのか?」


「多分出遅れてるのは君だけど。まいっか、桃、気を付けてね」


「はいっ」


含みのある物言いにかちんときて言い返そうとした三成の背中を押して部屋から出すと、早速待ち受けていた幸村と三成の間に挟まり、歩き出した。


「本日はお元気そうで何よりです」


「心配かけてごめんね?謙信さんと仲直りしたからもう大丈夫だよ。三成さんも…ごめんね?」


交互に見上げられて、三成と幸村の頬がほんのり桜色に染まる。


――昨晩のやりとりが気にかかるが、それよりも何よりも桃に笑顔が戻ったことこそが重要。


正門の前で準備運動をすると、細い脚で大地を蹴って走り出した。


「置いてくよー!」


3人が元気よく城から遠ざかって行く姿を天守閣から眺めていた謙信は久々に心から笑って、兼続を喜ばせた。


「殿、桃姫とはどのように?」


「内緒。もう心配ないよ。それより桃たちが戻って来たら軍議を開く。政宗が向かって来ているらしいから、作戦会議を開こう」


「はっ」


――桃、離さないよ。


この腕が折れても、君を離さない。
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