優しい手①~戦国:石田三成~【完】
土佐の長宗我部の水軍が味方に――


上杉軍はさらに士気が高まり、元々勇猛果敢で恐れ知らずの多い越後の強者たちは左近と元親をもろ手を上げて歓迎した。


左近は次々に並々と注がれる酒を飲み続けていたが…元親は逆で、謙信からのみ酒を受けると何かを待っている風情で背を正し続けている。


――謙信はそんな元親を、肘掛けに頬杖を突きながら笑いかけてからかう。


「私の姫に用みたいだね。もしかして早々に懸想でもしたかな?」


「桃姫は謙信公のご正室になられるのか?」


「最初はそうだったんだけどね。その話も後でするよ」


優男同士が微笑みあい、とんがった者同士の三成と政宗が互いに悪態をつきながら酒を交わす。


「愛姫が居ながらのこのことよくここまで来れるな」


「愛はただの幼馴染だ。三成よ、そろそろ俺の刀の錆となるか?」


すでに場は盛り上がりに盛り上がり、歓声や踊り出す者も現れ始めた中…


すっと襖が開き、一瞬にして静けさを作り出したのは、桃だった。


白い着物に緋色の打掛…


付け髪で髪を長くして、ほんのり赤く染めた桃がしずしずと入って来ると、家臣団が自慢げに元親と左近に桃を語る。


「どうだ、うちの殿の姫は。お美しいだろう?」


「ようやく殿がご正室にと決めたお方なのだ。手など出したら流刑では済まさぬからな」


元親が首を傾ける。


謙信は“正室ではない”と言ったが、家臣たちは“正室になる”と言う。


元々無口な男なので、そこで突っ込みを入れずに、謙信の隣に座った桃に笑いかけた。


「これはお美しい」


「あ、ありがとうございます…」


肩半ばまである黒髪を無造作に束ねただけの元親だが、“姫若子”と言われるだけあって謙信と同じように物腰柔らかで、つい頬を赤らめると政宗が嫉妬して元親の盃に零れる程酒を注いだ。


「そこの腰抜け共は桃が元の時代に帰ることを勧めておるようだが俺は違う。必ず俺の正室に…」


「まあまあ、今宵は無礼講だから堅苦しい話は無しにしようよ。お、いい飲みっぷりだねえ」


注がれた酒を元親が一気に煽ぐ。

そして空になった盃を桃に差し出した。


やはりこの男…
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