優しい手①~戦国:石田三成~【完】
元親がさっきから熱っぽい瞳でこっちを見ている。

とりあえず元親の盃に酒を注いで、謙信には目もくれず、こちらを見つめたまま目の高さまで1度盃を上げると、ぐいと飲み干した。


「美味い。美しい姫を前にして飲む酒は違いますね」


「君は度胸があるなあ。桃は確かに正室ではないけれど、一応夜伽は交わしてるんだけど」


「ちょ、謙信さん!」


謙信が煽り、元親はそれを軽く受け流すように肩を竦めるとまた桃に向き直る。


「もう一献ちょうだいしたい」


「は、はい…」


――その時、三成が腰を上げた。

およそ目につくような大仰な動作ではなく、どちらかというと見逃すような静けさで立ち上がったのだが、大広間を出て行ったので急にそわそわして桃も立ち上がる。


「桃、どこに行くの?」


「あ、あの・・・お手洗い!」


それを止めれるわけがなく、皆が鼻の下を伸ばしながら桃を見送り、そして桃はどんどん遠ざかっていく三成を追いかけるべく脚を縺れされながらちょこちょことついて行く。


「三成さん、待って!」


「…どうした?」


振り返った三成は…いつもと同じに見えたがちょっと不機嫌そうで、今度は桃が先頭に立つと天守閣に引っ張り込み、座った三成の前に同じように座ると顔を覗き込んだ。


「どうしたの?何かいやなことでもあったの?」


「…いや、別に」


…“別に”という顔はしていない。

尋ねると明らかに不満げな顔になって、膝に乗っている桃の手をやんわりと払う。


それに対して今度は桃が唇を尖らせて抗議した。


「言いたいことがあるなら言って。男でしょ?」


しばらく見つめ合っていたが…屈服したのは三成の方で、身体ごと桃に背を向けながら拗ねた口調で不満をぶちまけた。


「そなたはああいう顔の男が好きなのか?どうせ俺は美しくもなければ性格も良くないからな」


桃が黙ってしまい、ちょっと心配になって振り返ると…腹を抱えて声を押し殺して爆笑していた。


「…何故笑う」


「だ、だって…ふふふっ、三成さんもすっごくかっこいいのに謙遜?鏡見た方がいいよ、女の人が放っとかないよ?」


頬に伸びた手を、握る。
< 522 / 671 >

この作品をシェア

pagetop