優しい手①~戦国:石田三成~【完】
春日山城は徳川軍に見張られている。


だから城を1歩出たら瞬く間に気付かれてしまうだろう。

ここからは、全速力で徳川軍の本陣に向かって攻め込む。


「さあ、行くよ。大将の首を獲ったら小物は倒さなくていい。わかったね?」


「御意!我が軍は無駄な殺生はいたしませぬ。殿、ご安心を!」


真っ白い僧服の謙信。

返り血を浴びたのは今までたった1度だけ。


「みんな、気を付けてね!」


正門の前まで桃が見送りに来て手を振ってきて、桃の見張りのために残した景勝が頭を下げた。


「出陣!」


掛け声が山を振るわせて、隊に分けられた兵たちが徳川軍の本陣に向かって走り出した。


信濃の国境沿いに居ることは甲斐の旧武田軍から情報が入ってきていて、両軍はにらみ合い、越後へと入ってこようとする徳川軍を食い止めていた。


――そして家康側も謙信が自ら兵を率いてこちらに向かってくるのを聞いて、背筋を震わせていた。


「動いたか…!くそ、まだ信長様の軍と合流するには3日はかかるぞ…!」


以前説得をしに越後を訪れた時は素直に受け入れてくれたが、頑として降伏は拒んだ。


…本当は謙信とは絶対に戦いたくはない。


毘沙門天に愛された男――


しかも天の昇り竜と称され、同じく“奥州の龍”と呼ばれる若き伊達政宗も一緒なのだ。


「まずいぞ…信長様側につけば次の天下は私だとおっしゃったから味方についたのに…!」


選択を誤った、と思った。


「降伏すべきか…!いや、しかし、戦ってはみたい…」


自分が死んだことにすら気づかない、と言われる謙信の太刀筋。


浮かべた微笑に唆され、見入ってしまうと、いつの間にか絶命していた…


そんな風に称される軍神。


集結した名だたる武将の名に震え上がる兵たちも多く、敗走する者も出始めた。


特に真田幸村は、やばすぎる。


一騎当千どころではない活躍を武田信玄のために奮い、今は上杉謙信の懐刀として自在に力を発揮している男――


「どうする…どうする…!」


近付いて来る。

大地に耳をあてると足音が聞こえてくるような気がして冷や汗が噴き出した。
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