優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「あれは家康だね。影武者じゃないよね?」


「そうですなあ、遠目故なんとも…」


――平原にぽつんと1人。

徳川軍の本陣に向かおうとしていた謙信たちは、単騎で待ち受けていた家康であろう男の前で馬を止めた。


「わざわざ出迎えに来てくれたの?これは手間が省けたよ」


――僧服姿の謙信が笑いかけて来て、きっちり鎧を着こんでいた家康はひらりと馬から降りて片膝をついた。


謙信はそれを見て兼続と顔を見合わせると、家康は冷や汗をかきながら顔を上げずに無条件降伏をした。


「私は謙信公と争うつもりはございません。…降伏いたします、ですので…」


「三河を攻めたりはしないよ。私に降伏なんかするときっとひどい目に遭うよ?」


「信長公にお会いする前にあなた様が信長公を討つでしょう。私は…お味方のふりをして信長軍を急襲いたします」


謙信も馬から降りて、家康に手を差し伸べた。


「私についたって天下は転がり込んで来ないよ。そもそもそういうのには興味がないんだから」


家康は腰から愛刀を抜いて、両手に持つを捧げるようにして謙信に差し出した。


「三河及び私徳川家康は上杉軍にお味方いたします。どうか共に戦わせて下さい」


軍神上杉謙信と戦ってみたいが、共に馬を走らせてこの戦乱を駆け抜けてみたい、とも思った。


…信長は恐怖と力でもってねじ伏せてきたが、謙信は違う。


この男は、義の男だ。


「へえ、じゃあ君とは戦わなくていいんだね。軍は貰い受けていいの?」


「はい、いかようにも」


「そっか、じゃあ兼続、軍を編成し直して。三成の所に少し兵をやらせよう」


「御意!」


早速兼続がてきぱきと動きだし、謙信が再び馬に騎乗すると、家康は心底安堵して、今までの非礼を詫びるために再び深く頭を下げた。


「桃姫の件は…」


「ああ、もうそれはいいよ。清野のおかげで桃の親御は脱出できたようだし、それで良しとしよう。さあ家康、行こうか」


…さっきまでは敵同士だったのに、謙信はあっさりと家康を受け入れた。


“もし裏切ったら?”とは一切考えない男だ。


家康は目頭が熱くなって、頭を上げられずにいた。
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