優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成はこの時別働隊を率いて国境沿いを見張っていた。


傍らにはしっかりと幸村が張り付いて、軒猿が逐一戦況の報告をしてきて、そして徳川家康が降伏した報を聞いて、舌を巻いていた。


「大した混乱もなくこんなにあっけなく戦とは終わるものなのか?」


「殿ならば可能です。殿が自ら出陣した戦ではしばしばこのようなことが起こります。…信玄公は逆にいつも喜んでおられましたが」


少し懐かしんだ口調で長年仕えた武田信玄を振り返った幸村の肩を叩き、山中の木陰から春日山城に引き返してゆく上杉軍を見ながらも三成はその場に留まった。


「俺たちは今しばらくここで警戒する。…桃の下に戻りたいなら先に行ってもいいぞ」


「!拙者もここに残ります!三成殿…拙者をからかわないで下さい!」


顔を真っ赤にさせて否定しまくる幸村をからかうのは面白く、上杉軍にほとんど死者が出ていないことに驚嘆し、暮れて行く空を見上げた。


――その頃春日山城では…正装したままの桃の隣にぴったりと景勝が張り付いていた。


「あの…景勝さん…」


「…はい」


「あの…お手洗いに行きたいから…ここで大丈夫です」


厠の前までついて来ていた景勝はほんのり頬を桜色に染めて頭を下げた。


「…どうぞごゆっくり」


「あの…はい…」


気苦労、とまではいかないが、景勝は三成以上に口が重い。

しかも景虎が北条に戻り、同じ年頃の者が居なくなり、寂しい想いをしているに違いないのだ。


桃はそんな景勝の機微に気付いていて、用を済ませて厠を出て、景勝の手をきゅっと握った。


「トラちゃんが居なくなって寂しくなっちゃったね。いつでも私の部屋に来ていいんだからね」


にこーっと笑った桃に救われる思いになった景勝はこの時、謙信と景虎にしか見せたことのない笑顔で桃の手を握り返した。


「俺を気遣って下さるのですね。桃姫は本当にお優しい」


「普通だよ?ねえ、さっきお団子を頼んだの。一緒に食べようね」


「…はい」


手を繋いだまま部屋に戻った時、軒猿からの報告があった。


「徳川家康が降伏しました」


この城にやって来る。

…三成を殺した男が。
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