優しい手①~戦国:石田三成~【完】
しばらくして三成が部屋から出て行くと、入れ替わりに謙信が入ってきた。


「喋り疲れてないかな?甘い蜜柑を持って来てあげたよ」


「わっ、嬉しいっ!疲れてなんかないよ、来て来て!」


“掌で転がせ”と三成からアドバイスをされていたので、笑みを湛えながら傍らに腰を下ろした謙信の膝に触れてなでなでしてみた。


「おや?どうしたのかな?」


「ううん、謙信さんに触りたいだけ」


「そう?じゃあもっと思いきり触ってみる?」


ぐっと顔を近づけて来たので慌てて頭まですっぽり掛け布団を被るとくすくすと笑う声がした。


「三成に何か入れ知恵をされたね?君はわかりやすいんだからすぐにわかるんだからね」


「もうっ、謙信さんには適わないよ。あのね、三成さんに“謙信を掌で転がせ”って言われたの。ねえ謙信さん、どうやったら掌で転んでくれる?」


謙信は蜜柑の皮を剥きながら小さく笑うと、剥き終えた蜜柑をひとつ食べながら天井を見上げた。


「すでに絶好調で君の掌で転がされてると思うけど。これ以上転ばせるつもりなら、“戻りたくない”って思っちゃうかもよ」


今度は口に蜜柑を入れてくれてもぐもぐ食べながら桃も笑った。


「だって明日は出陣なんでしょ?重臣の皆さんはなんだかみんな落ち着いてたけど…出陣の前日ってこんな感じなの?」


「そうだねえ、私の場合はわざと皆の前でごろごろだらだらして“俺がやらなければ!”って皆に思わせるのが仕事かな。“越後は俺が守るのだ!”って皆息巻いてるよ」


「謙信さんって相変わらずおかしい人っ」


交代交代蜜柑を食べ、桃の手を握るとその手からものすごいエネルギーが身体に伝わってくるような気がして謙信の顔を見つめた。



「君がこの時代へ来たのには何か意味がある。そしてすでに君は私を変えた。三成も幸村もそうだろう。君はかけがえのない人だ。どうか身体を厭っておくれ」


「…うん。ありがとう謙信さん。今日は大宴会になるんじゃない?私もご馳走食べたいし、それまで寝てるね」


「後でまた呼びに来るよ。おやすみ桃」



額にキスをしてくれた謙信の額にキスを返し、いっときの別れを惜しんだ。
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