優しい手①~戦国:石田三成~【完】
明日は決戦の時――

そう思うとなかなか寝付けるはずもなく、桃はそっと床から抜け出ると、両親の居る客間へと忍び込んだ。


「お父さん、お母さん」


「あら桃?起きていて大丈夫なの?いらっしゃいな」


…父と母と暮らした記憶はほとんどない。

だからこそ逆に気恥ずかしくなって入り口でもじもじしていると、ゆかりが笑いながら手を引いて中へと入れてくれた。


「明日は…出陣でしょ?その…割れた石はどうなったの?お父さんの分は?」


「実は…信長が欠片を持っているの。きっとここまで持ってきているはずよ。それを取り返さなければ…」


「お母さんのも割れてるよね。そんなんで…元の時代に戻れるの?」


――つい声が上ずってしまった。

それもこれも、“帰りたい”と口にしながらも、“帰れない”という状況を期待してしまっているからだ。


それを感じたのか、茂とゆかりが顔を見合わせて、桃に笑いかけた。


「桃は…残りたいのかい?」


「えっ!?そ、そんなことないよ!………わかんない…。そうなのかな…」


俯いた桃の頬にかかる黒髪をゆかりが優しく払うと、桃の頭を引き寄せて肩にもたれかからせた。


「…ここまで後悔したでしょう?あなただけのせいじゃないのよ、私と茂さんが先に歴史を狂わせてしまったの。現代にどんな影響が出るかわからないけれど…お母さんはあなたはここに残っていてもいいと思ってるわ」


「!お母さん!?でも…謙信さんも三成さんもすっごく有名な武将で…」


「いいのよ。女の子は好きな人の傍に居なきゃ駄目よ。ね、茂さん」


ゆかりがずっと黙っているしげるに問いかけると、しげるは膝の上で真っ白になっている桃の拳に触れて擦ると、笑いかけた。


「うちの娘があの石田三成と上杉謙信を手玉に取ってるのか…。生涯自慢にできるぞ」


「も、もうっ、お父さんったら!」


重たかった空気が明るくなり、両親と会えて心も軽くなった桃は2人の真ん中に収まると代わる代わる両親を見つめてお腹を擦った。


「赤ちゃん…一緒に育ててくれる?」


「…桃が残る決断をするのならもちろんよ。一緒に育てましょうね」


ほっとした。
< 596 / 671 >

この作品をシェア

pagetop