優しい手①~戦国:石田三成~【完】
その夜は大判ふるまいとなった。

普段は百姓をしている下級の兵士たちにも豪華な食事が振舞われ、だが謙信からいつものおかしな通達も同時に発令されていた。


『家族が大切な者は出陣しなくてもいい』


…戦が起こる度に毎回謙信はそう言い、恐れを為したり家族を大切に思う兵たちが出陣を辞退しても罰を与えることなく許した。


だが、逆に皆はそれで奮起するのだ。


“こんなに優しい謙信公を失うわけにはいかない”と。


また俸禄も毎回けた違いに多く、1度戦に出ればその後1年は十分に家族を養ってゆける。


この越後と言う国を平和に導く男、上杉謙信。

いや…この国を平和に導く男、上杉謙信。


――その謙信が上座に座り、桃を隣に座らせると景勝が音頭を求めた。


「父上、音頭を」


「ええ?いやだよ恥ずかしい。君がやりなよ」


「い、いえ、俺は…」


押し問答をしているうちに、目の前にずらりと並べられた豪華な食事にしきりに喉を鳴らしていた桃がついにしびれを切らし、謙信の腕を引っ張って無理矢理立ち上がらせると一斉に重臣たちも腰を上げた。



「謙信さん、早く早く!」


「もー、仕方ないなあ。じゃあみんな、明日は第6天魔王と名乗るうつけ者の退治をするわけだけど気負わなくていいからね。君たちが強いのは知ってるけどあのちょんまげ男の首を取るのは私だから残してもらうよ」


「殿!重々心得ておりまする!」


「悪しき信長を滅し、桃姫をご正室にお迎えになって天下を獲りましょうぞ!」



…やや気になる奮起の声もあったがそこはスルーして盃を掲げると、皆が一斉に同じ言葉を発した。


「謙信公と、毘沙門天の名の下に!」


妊娠しているかもしれない桃はお酒を飲むことはできないので甘い果実水だったのだが、目の前に居た三成が笑いかけてくれてすっと肩の力が抜けると早速座り、早速お箸を手にして皆に笑われた。


「さあ食べて食べて。私のもあげるよ」


「沢山あるから大丈夫!足りなくなったらもらうから!」


尾頭付きの鯛は最高に美味しくて、目を皿のようにして骨を取り除いている桃を酒の肴にする連中が続出し、その夜は笑いの絶えないものとなった。
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