優しい手①~戦国:石田三成~【完】
早朝、誰かに肩を揺すられて目を開けると、枕元には武装した幸村が座っていた。


「あ…、幸村さん…おはよう…。え、もう朝…?」


「殿と三成殿はもうご準備がお済みです。桃姫、外をご覧ください」


障子を開けて外を見ると…そこには城の回りをぐるりと埋め尽くす黒山の人だかりができていて、ばっちり目の覚めた桃は駆け寄って身を乗り出した。


「も、桃姫!」


「すっごい…!この人たち…みんな兵士なの!?」


「はい、これでもごく一部です。皆さま桃姫をお待ちになっておられます」


一気に緊張してしまった桃は慌てて床から抜け出すと転びそうな勢いで小走りに自室へ向かい、幸村を冷や冷やさせた。


「早く顔洗って着替えなきゃ!織田軍は今どこに居るの!?ここ…攻められちゃう!?」


「いえ、この城は要塞のようなものなので攻め込むのは容易ではないでしょう。殿はこちらから打って出るとお考えです」


「そっか!早く起きたんなら起こしてほしかったのに!」


幸村があらかじめ用意してくれていた手桶に張った水で顔を洗い、幸村の前でまたもや浴衣を脱ぎ捨てると、それまで戦を前にして静めていた幸村の気が一気に乱れた。


「よしっ、これでOK!幸村さん、行こ!」


「は…、はっ!」


相変わらず翻弄されまくりながら一緒に部屋を出て大広間に向かい、毘沙門堂の前でまた頭を下げた桃に倣って幸村も頭を下げ、桃が大広間に飛び込むと…


そこに居たのは真っ白な僧服を着た謙信を上座に、そして居並ぶ三成や秀吉、政宗、元親、左近など錚々たる顔ぶれ。


流れる静かな空気に気圧された桃が中へ入れず立ち止まっていると、三成が腰を上げて桃の手を取った。


「待っていたぞ。早く行け」


「う、うん」


奥の方には両親や茶々の姿も見えて安心すると、謙信の隣に座って静かな軍神の横顔を見つめた。


「さあ、ようやく今日という日を迎えることができた」


その一言で空気がさらに張りつめる。


皆が謙信の一言一句を聞き逃すまいと身を乗り出し、重たい腰を上げた龍に熱い視線を送った。


…今日でお別れだ。


この声を覚えておこう、と――
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