優しい手①~戦国:石田三成~【完】
僧服姿の謙信は今まで何度か見てきたが、隣に座っている謙信は口角が上がっていつつも瞳には静かな炎が燈っているように見えた。

桃がじっと黙って見つめていると、空気を察したかのように肩に手を置いて、微笑んだ。



「承知の通り、織田信長が桃の親御の奪還と、桃を奪いにここまでやって来た。この戦は私が倒れれば敗け。だから私は退かない。わかるね?」


「もちろんでございます!殿!殿のお傍には常にこの直江兼続が居りますことをお忘れなきよう!」



すでに涙ぐんでいる兼続が拳を震わせると、謙信はいつものように兼続を叱った。


「兼続うるさい。桃と桃の親御は本隊の後方へ。守りを石田三成と長宗我部元親に命ずる。私と共に駆けるのは…」


名を呼ばれるのを今か今かと待ち受けていた男たちが腰を浮かせて身を乗り出し、謙信は彼らと1度視線を交わしながら笑いかけた。


「兼続、幸村、政宗は私と共に前衛を。私は常に毘沙門天と共に在る。仏の加護がある限り、私たちが敗けることはない」


…揺るぎなき絶対的な自信。

静かな口調だが、心の内からふつふつと闘志が燃え上がり、鎧の音を響かせながら皆が拳を振り上げた。


「おぉーーー!」


そんな中口を開いたのは秀吉で、顎髭を撫でながらひとりのほほんとした口調で謙信に話しかけた。


「儂はどうすればよいかのう?」


「秀吉公は前衛と後衛の間に入って下さい。桃たちは本体の後方なので、あなたの軍が盾となって下さるならば安心して戦えますから」


「承知した。では行こうかの」


皆が続々と大広間を出て行き、最高潮に緊張が高まった桃が動けずにいると、茂とゆかりと茶々が桃の前に座った。


「何万という軍が動きます。ですが謙信公と秀吉様にお任せしていれば大丈夫ですよ」


「茶々さんは…行かないの?」


問うと、茶々は姉にそっくりな顔に苦笑を滲ませ、首を振った。


「足手まといになりますから。もしかしたら…桃姫とはこれでお別れとなってしまうのかもしれませんね」


――桃は微かに唇を震わせると、小さな小さな声で茶々にお願いをした。


「三成さんを…よろしくお願いします」


願いを込めて。
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