優しい手①~戦国:石田三成~【完】
その桃の願い事は三成の耳に届いていた。


…ものすごく、歯がゆい。

怒鳴りたいし、心配してほしくないし、去ることを前提の話をしてほしくない。


だがなんとか耐えて歯を食いしばると、謙信からこそりと笑われた。


「…笑うな」


「私たちは戦になると女子に心配されてばかりだね。ああ、私はこれからも戦に出かける時は桃に心配されたいなあ」


謙信の呟きは小さなものだったが、今度は桃の耳に届いたらしく…無理矢理笑顔を作るとからからと笑った。


「謙信さんは越後の女の子全員に心配されてるよ。もちろん私も心配してるから。絶対…無理しないでね。三成さんも絶対傍にいてね。家康…さんとは一緒に居ないでね」


「家康は私が前線に連れて行くから大丈夫だよ。さあ行こうか」


――その時桃が急に謙信の手を引っ張って小走りに毘沙門堂の方へと歩きはじめた。


「桃?どうしたの、そろそろ行かないと…」


「毘沙門天さんにお願いするの!必勝祈願!」


「必勝祈願?ひょっとして私が敗けるとでも思ってるのかな?大丈夫だってば」


それでも桃は謙信をお堂の中へと引きずり込むと、荘厳な佇まいで見下ろしてくる毘沙門天像の前で正座して印を結んだ。


「ほら、謙信さんも!ちゃんと座って!」


「はいはい、仕方ないなあ、君には適わないよ」


…僧服姿の謙信はぞっとするほど美しい。

僧帽を目深に被ると女性のように見えて、桃の時代では上杉謙信は女性なのではないかという説が未だに消えていないことを思い出してつい笑ってしまった。


「今度は笑ってるね。なんなの、私にも教えてほしいな」


「ううん、こんな綺麗な男の人は見たことないから…目に焼き付けてるだけ」


「…そう?私も君みたいにじゃじゃ馬で泣き虫で可愛らしい女子は見たことなかったよ。桃、膝においで」


――謙信の膝に上がって一緒に毘沙門像を見上げるとみるみる気が落ち着いてきて、改めて謙信との縁を感じて絡められた指先をきゅっと握りこんだ。


「絶対絶対死なないでね。絶対戻って来て。でないとクロちゃんで会いに行っちゃうから」


「それは困るなあ。君も無茶しないようにね」


約束を交わす。
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