優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成の細い背中が目の前で揺れていた。

桃は謙信の愛馬に乗り、大勢の上杉軍に囲まれながら進んでいたので、すでに謙信の姿は見えなくなっている。

だから三成の背中を忘れないようにと思ってずっと見つめていると…視線を感じて居心地が悪いのか、何度も三成が肩越しに振り返っていた。


「…な、なんださっきから!」


「え?見てるだけだよ。触ってないでしょ、見てるだけじゃんっ」


「触る!?…黙ってついて来い!」


「はーい」


夫婦漫才のような2人の会話に周囲が和み、桃の両親もそれまでは緊張していたのだが、笑みを見せた。

同じように元親や左近も桃の周囲を包囲し、終始軒猿の報告を受けながらも茶々を入れてきた。


「これが史上最大の戦には思えませぬなあ」


「織田信長…さんって強いんでしょ?私も…見ることができる?お母さんたちをひどい目に遭わせた人に文句のひとつでも言いたいよ」


「あなたが前線にたどり着くまでの間に謙信公が信長を討っているでしょう。謙信公にはそれだけの力があり、気概がありますから」


「…だよね。幸村さんも居るし何も心配しなくっていいよね」


――だがすでにあちこちから喧騒が聴こえていた。

各方面で乱戦が起こり、金属同士が打ち合う音や悲鳴が聴こえ、決戦となる平地に着くまでの間に桃にまた吐き気が襲ってきて、ただそれを悟られまいとじっと我慢していると…


「桃、こっちへ来い」


ちょっと前かがみになっていると三成が馬を止めて桃を並ぶと手を差し伸べ、元親が先頭を請け負った。


「え、な、なに?どうしたの?」


「吐き気がしているんだろう?落馬すると危ないからこっちへ来い」


鋭利な切れ長の瞳が和らぎ、少しほっとして謙信の愛馬の首を小さく叩いた。


「ちょっとあっちに行くけどちゃんとついて来てね」


「ぶるん」


桃を中心に完璧完全に包囲した一団が一旦停止し、三成が桃の両脇を抱えてクロに移らせると、クロが嬉しそうに鼻を慣らした。


「これじゃ三成さんが自由に動けないよ」


「俺は前線には行かないし敵軍には向かって行かない。そなたを守るのが俺の使命だ」


決意に溢れた声。
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