優しい手①~戦国:石田三成~【完】
僧服の下に甲冑を着こんだことは今まで1度もない。

それでも矢傷も太刀傷も今まで浴びたことがなく、だからこそ謙信は誰からも尊敬され、神格化されていった。

そして今も…


「ねえ家康、君は信長と対峙した時どうするのかな。言葉を交わすでしょ?」


「…私はあなた様に惚れ込みました。信長公は全て力でねじ伏せてきましたがあなたは違う。三河の軍は全て、あなた様のものです」


「それは違うね。三河を治めているのは君だしこれからも三河の民のことを1番に考えて行動すべきだ。信長を生かしておくときっと三河を襲うだろうからさっさとやっつけてしまおう」


家康も秀吉も反旗を翻し、織田軍は各国から軍を徴集し、烏合の衆と成り果てている者たちを恐怖政治でなんとかまとめているという態だ。

だが謙信は違う。

何も要求しないし、むしろ戦を避けてだらだらと過ごすことが何より好きなことを家康はすでに知っていた。


「殿、ここは一騎打ちをして頭を獲るのが最善策ですな」


「そうだねえ、信長もそう思ってるといいんだけど。無駄に死者は出したくないし、彼らにはこれからも美味しい米を作ってもらわなきゃいけないから」


僧服についているフードのような帽を目深に被って俯き、誤魔化してはいたが…明らかに欠伸をした。

それまで緊張していた幸村が頬を緩め、兼続がため息をつき、政宗が鐙をぶつけて謙信を注意した。


「全軍率いる貴公がそんなでどうする!気合いを入れろ!」


「気合い入ってるってば。ああ桃に会いたいなあ、夜までにはなんとかしたいな」


柔和な美貌がふっと微笑み、前線においても儚く、1本の矢でもあたれば倒れてしまいそうなほどに細い身体の主は桃を想い、空に向かって白い息を吐いた。


「此度の戦が終われば預かっていた石を桃に返す。そういう約束だったからな」


「うん、そうするといいよ。私はやれることを全てやったつもりだから…これ以上はどうすることもできない」


「…桃を正妻に、と言うのは俺は諦めたが桃が貴公の正妻に収まってほしいとは思っている。…もう少し気合いを入れろ!」


「だから頑張ってるってば」


こちらも、言い合い。

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