優しい手①~戦国:石田三成~【完】
歩を進めていると、300ほどの集団が正面から見えた。

その中にはもちろん信長の姿はなく、こちらがどう出るか様子を見に駆り出された兵としか思えなかった。


「殿、どうなさいますか」


「仕方ないね、やろうか。戦なんてしたくないのに…」


「桃姫のためだ。ふん、怖いなら俺の背中に隠れてろ。先に行かせてもらう」


――半月円の飾りをつけた兜が陽光を反射し、馬の腹に括りつけていた銃身の長い鉄砲を外して構えると、わざわざ奥州から引き連れてきた精鋭部隊をずらりと横一面に配置させた。


「怖くないし鉄砲なんて趣味じゃないなあ」


「阿呆が。鉄砲の威力を思い知れ!構え!」


政宗が号令を発し、一斉に引き金を引いた。


耳をつんざく轟音が響き渡り、砂煙を巻き起こしながら近付いてきていた信長軍が被弾して次々と落馬し、幸村が三本槍を構えると飛び出して行った。


「殿!先に参ります!」


「私も行くってば。弱虫扱いはやめてほしいなあ」


とうとう謙信が刀を鞘から抜いた。

直属の重臣たちは、さも自慢げに笑みを浮かべ、共に駆けるために同じように刀を抜いた。


「殿、息切れされては困ります故適当にお願いいたしますぞ」


「兼続小言うるさい。それは幸村に言ってよね」


戦においては桃からも全幅の信頼を置かれている男はすでに恐慌状態の信長軍の中心に潜り込み、鬼神の如き戦いぶりを発揮している。

悲鳴が轟き、血しぶきが飛ぶ中を華麗に駆け抜け、謙信は腹を軽く蹴って愛馬を走らせると桃の笑顔を思い浮かべていた。


「今日で最後、か。…最後くらいは私のかっこいい所を知ってもらおうかな」


――白い姿が戦列から飛び出て行った。


単騎で駆けてゆく謙信に話されまいと重臣や歩兵たちも必死になって駆けるがまるで追いつけず、この時信長軍の小隊を率いていた男は謙信の姿を見て恐れ戦いた。


「ひぃっ!」


「君の罪は第六天魔王と名乗る織田信長に屈した罪。私が毘沙門天の名の下に引導を渡してあげよう」


相対した時、まるで勝てる気がしなかったが…向かっていくしかない。


謙信と対峙すると、皆そうなる。
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