優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信に首を飛ばされた隊長は…首が落ちるその瞬間まで、謙信の柔和な笑みを凝視していた。


首を失った身体は1歩でも孤高の白き男に近づこうと手を伸ばし、膝から崩れ落ちると、意識が暗闇に呑まれていった。


まるで斬撃が見えなかった。

信長軍は謙信の登場とその刀捌きに恐れを為し、まとまっていた軍が散り散りになったが、上杉軍は誰1人として敗走する兵を追うことはなかった。

何故かと言うと、謙信が無駄な殺生を嫌うからだ。

“頭を押さえればいい”という謙信の教えの下に、上杉軍は皆刀を鞘に収め、刀を振って血糊を吹き飛ばした謙信に追いついた。


「殿、申し訳ありません…頭が見つからず、無駄な殺生を…」


「いや、いいよ。同じ甲冑を着ていたし隊長という風体でもなかったしね。さ、行こうか」


常に前線に身を置く謙信の傍に居たい面々が謙信に身を寄せるようにして固まり、政宗は皆に愛される謙信にやきもちを妬き、家康に八つ当たりをした。


「貴公の軍もあのように貴公を慕っているのか?いやいや、貴公はそんな器ではないな」


「…信長公は実力はありましたが、慕われる方ではありません。ひとつ間違いを侵せば首が飛ぶ…そういうお方です」


「俺とてあのように兵に好かれたい。…謙信の傍に居れば何か見つかるやもしれぬな」


元来謙信に密かに憧れを抱いていた政宗が前進すると、家康は最近思っていたことを口にした。


「…桃姫に嫌われている気がするのですが…何故でしょうか」


「桃姫は先の時代からやって来た。故に俺たちの生き様も知っている。貴公が謙信か三成に危害を加えたのでは?」


「…1度じっくりとお話をしてみたかったのですが…残念ですが叶いそうにもありませぬ」


「信長の首は今日落ちる。信長に寄生してきた貴公にとっても枕を高くして眠れる日がやって来るぞ」


「ちょっとそこうるさいよ、私も加えてよ」


「…矛盾していると思わぬか?」


謙信が笑うと、皆も笑う。


仏に愛され、皆に愛される男には一縷の隙もなく、上杉軍は織田軍の本陣に近づいていた。
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