優しい手①~戦国:石田三成~【完】
上杉軍には唯一1人だけ女子が随行していた。


…清野だ。


上杉軍に対する献身ぶりが評価され、桃の傍よりも謙信への帯同を許され、馬に乗りつつすぐ傍に謙信の背中があり、胸が熱くなりながら全神経を張り巡らせていた。


桃が居なくなったら…きっと謙信は落ち込み、塞ぎ込むだろう。

飄々としてはいるが、桃を大切にし、愛していることは誰から見てもわかる。


居なくなったら…自分が代わりになるとは思ってはいない。

だが傍には居てやることができる。

謙信が“仕置き”として行った1度だけの情事は清野にとって何よりも大切な思い出となっていた。


「殿、本陣が近いですぞ、そろそろ乱戦になりまする」


「ま、大丈夫でしょ。私は平気だけど、それよりも桃が気になるなあ」


「三成や元親が居りますので問題ないでしょう」


「それが心配なんだけどなあ、桃に何かするかもしれないでしょ」


「貴公ではあるまいし。三成に限ってそれはない」


…三成が堅物であるという点だけは意見が一致しており、笑い声が上がると、一縷の気の緩みのない清野が謙信よりも前に馬を動かし、全軍を停止させた。


「清野?」


「地を揺るがす音がいたします。ですが…一騎…?」


謙信を見てしまうと集中できなくなるので、前を見据えたまま清野が前方をもっと見ようと瞳を細めると、忍びの清野よりも先に謙信がその存在に気が付いた。


「あれは…蘭丸だね」


「なんですと!?信長の一の家臣が何故…!」


「…危ないんだろうね」


――命が。


謙信はこの時、信玄と対峙した光景を思い浮かべた。

信玄は病に敗れた末での対決だったが、信長は命からがら逃げおおせて助かった命。

天命はもう尽き、後は地獄へと落ちる身の男がこうしてまだ牙を見せ、立ち向かってくるのは、まだ諦めていないからだ。


…そしてこちらも、諦めてはいない。


「また対決になりそうだね」


「殿…よろしいのですか?」


「私と信長が大将なのだから、どちらかの首が落ちればこの戦は誰も命を落とさずに終わらせることができる」


受けて立とう。

全てを守るために――
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