優しい手①~戦国:石田三成~【完】
その場がしんと静まり返った。

徐々に大きくなるその人影は間違いなく森蘭丸で、何の武装もしておらず、静かに前進してくると、謙信と兼続、そして1歩後ろから清野がついて行く。


「上杉…謙信公とお見受けいたす」


「その綺麗な顔は森蘭丸だね。1人でここまでやって来て一体どうしたの?」


あくまで自然体の謙信と、殺気立っている蘭丸――

刀を携帯してはいたが、小柄な蘭丸がどう腕を伸ばしても斬れない距離で馬を止めると、自身を落ち着かせるようにして蘭丸が長い息を吐いた。


「我が主君織田信長公が一騎打ちを望まれておりまする。どうかお受け下さいますよう」


「信長はもうそんなに危ないの?長旅は彼の身体に堪えただろうね。でもそこまでしなくちゃいけない理由は?」


僧帽姿の謙信は柔和な笑みを浮かべ、リラックスしている。

蘭丸は警戒を解かず、謙信の背後に居る清野を睨みつけると、外見に似合わない低い声を出した。


「…我が殿が勝利した場合は桃姫を頂く。私がお伝えしたいことは以上……いえ、あともうひとつ」


桃を欲しがっていることはわかっていたので、一瞬言いよどんだ蘭丸を見つめると、清野は謙信を通り越して背後の清野に声をかけた。


「殿は大変ご立腹されておられる。謙信公よりもそなたに会いたがっておられる。…覚悟せよ」


「…」


清野が黙ったまま表情を貫くと、兼続がそれを横目で見ながら謙信に問いかけた。


「殿、受けるのですか?」


「うん、最善の方法だと思う。なんなの兼続、私が敗けるとでも?」


「い、いえ、そのようなことは!」


「信長はよっぽど桃に会いたいんだねえ。清野、桃たちを前線まで連れて来てくれるかな」


「…御意にございます」


「決戦は山をひとつ越えた平原にて。これにて御免」


謙信に背を向けてもきっと襲われはしないだろうという奇妙な安心感を覚えた蘭丸が背を向けて走り去ると、謙信はもう蘭丸に興味を失っており、馬の向きを変えて遥か後方の桃たちを待った。


「信玄の時の一騎打ちとはまるで違う。信長は必ずここで倒さなければ。…この国のためにも」


龍が目覚める。
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