優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信とは深い深い縁がある――

はじめて会った時のことを思い出した。

女性と見紛うほどにやわらかな微笑を浮かべた謙信を見た時、計り知れない何かが心の奥底から湧き上がってきたこと…今も忘れていない。


「謙信さんって…前世を信じる人?」


「信じているよ。私と君は前世でも深い関係だったはずだ。今生で結ばれるものとばかり思っていたんだけどなあ」


「…じゃあ…来世で?」


「前世でもそう約束したと思うけれど、叶わなかった場合はまた持越しなんだろうね。桃、身体は大丈夫?つらくはないかい?」


…正直言って、三成と謙信の“優しさ”の種類は違う。

三成は不器用だけれど優しいし、安心できる。

謙信は計り知れない大きさとあたたかさで身体中を満たしてくれる。

今は…謙信の傍に居たい。


「うん、大丈夫。謙信さん側の本陣はどこに置くの?」


「山中になるだろね。山を越えると平野があって、そこが決戦の場になる。今日中にと思っていたんだけど、無理っぽいなあ」


「い、急がなくていいよ。…まだもうちょっとだけ一緒に居たいな…」


「そう?じゃあ明日の私の勝利を願って、今夜は三成抜きで一緒に寝たもらいたいな」


背中から抱きしめられながら耳元で囁かれ、身体がぞくぞくしてしまいながら頷くと、衆目があるにも関わらず、耳たぶにぱくっと噛みつかれた。


「ゃ…っ」


「大半はまだ君は私の正室になるのだと思っているのだから、それらしくね。私の声はどう?」


低く低く、身体に沁み渡るような男の声――


普段の謙信からは想像もつかないほどに男らしい声は胸をときめかせ、桃は身体を丸めて謙信の唇から逃れた。


「み、みんなが見てるから…」


「見てるからしてるんでしょ。おっと、三成、どうして鞘に手をかけてるのかな?」


「不届き者を成敗するためだ」


「えー?それってもしかして私なの?まあいいや、早く桃を休ませてあげたいからちょっと飛ばそうか」


――謙信の愛馬が足音も軽やかに尻尾を高く上げ、喜びを表した。


風となり、時に鋭い刃となり、一瞬にして命を奪う毘沙門天の化身――

皆が謙信の勝利を信じて疑っていなかった。
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