優しい手①~戦国:石田三成~【完】
時々突発的に襲撃を受けつつもひとりの死者を出すことなく本陣へと着いた謙信一行は、山が火事になったのではないかというほどの盛大なかがり火を焚いた。
桃は開けた山頂から景色を見ようと思ったのだが、この時はすでに真っ暗になっていて、見えるものは何ひとつない。
そして…本陣から少し離れた場所には寺があり、謙信はそこで毘沙門天に祈りを捧げていた。
「なんかどきどきする…」
「みんなそうだよ。気が昂っている者も居れば、気を奮い立てて戦に臨む者も居る」
「謙信さんはどっちなの?」
「私?あんまり気負うことがないからなあ…。甲斐の虎と戦っていた時は妙に高揚していたけどね」
生涯唯一のライバルとも言える信玄を亡くした直後の謙信は、意気消沈しているように見えた。
唯一全力を賭して戦うことのできるライバルを失い、血に濡れた僧服を手に夜を明かしていた謙信――
本当は繊細な人なのだと思う。
そして心の綺麗な人だ。
「三成さんどこに居るのかな、政宗さんたちに引っ張られてどっか行っちゃったけど…」
「宴会でしょ。うちの家臣たちはああいう堅物も大好きなんだよ。1度打ち解けてしまえばもう仲間だ。それが私の教えだからね」
ぴんと背筋を正し、座禅をして瞳を閉じ、瞑想する謙信の隣に移動すると、謙信が作り出す宇宙に呑まれそうになり、一緒に瞳を閉じた。
「毘沙門天さんと対話できた?私も…もう明日には帰るかもしれないから最後にお祈りしておこうかな」
「…最後ってなに?君は元の時代に帰ったら、もう毘沙門天のことは忘れるつもりなの?君をここへ連れてきた毘沙門天を?」
「ち、ちが…謙信さ…っ」
険のこもった声色に桃が顔色を変えると、謙信の横顔は…唇は、少しだけ震えていた。
「…謙信さん…」
「君を帰す約束はしたけれど…戦に勝っても私には何ひとつ残らない。君と一緒に過ごした日々もいつか風化して…頭の片隅にかすかに残る小さなものになってしまうんだ」
「ゃ、やだ、そんなこと言わないで…!」
俯いた謙信を、全力で抱きしめた。
桃は開けた山頂から景色を見ようと思ったのだが、この時はすでに真っ暗になっていて、見えるものは何ひとつない。
そして…本陣から少し離れた場所には寺があり、謙信はそこで毘沙門天に祈りを捧げていた。
「なんかどきどきする…」
「みんなそうだよ。気が昂っている者も居れば、気を奮い立てて戦に臨む者も居る」
「謙信さんはどっちなの?」
「私?あんまり気負うことがないからなあ…。甲斐の虎と戦っていた時は妙に高揚していたけどね」
生涯唯一のライバルとも言える信玄を亡くした直後の謙信は、意気消沈しているように見えた。
唯一全力を賭して戦うことのできるライバルを失い、血に濡れた僧服を手に夜を明かしていた謙信――
本当は繊細な人なのだと思う。
そして心の綺麗な人だ。
「三成さんどこに居るのかな、政宗さんたちに引っ張られてどっか行っちゃったけど…」
「宴会でしょ。うちの家臣たちはああいう堅物も大好きなんだよ。1度打ち解けてしまえばもう仲間だ。それが私の教えだからね」
ぴんと背筋を正し、座禅をして瞳を閉じ、瞑想する謙信の隣に移動すると、謙信が作り出す宇宙に呑まれそうになり、一緒に瞳を閉じた。
「毘沙門天さんと対話できた?私も…もう明日には帰るかもしれないから最後にお祈りしておこうかな」
「…最後ってなに?君は元の時代に帰ったら、もう毘沙門天のことは忘れるつもりなの?君をここへ連れてきた毘沙門天を?」
「ち、ちが…謙信さ…っ」
険のこもった声色に桃が顔色を変えると、謙信の横顔は…唇は、少しだけ震えていた。
「…謙信さん…」
「君を帰す約束はしたけれど…戦に勝っても私には何ひとつ残らない。君と一緒に過ごした日々もいつか風化して…頭の片隅にかすかに残る小さなものになってしまうんだ」
「ゃ、やだ、そんなこと言わないで…!」
俯いた謙信を、全力で抱きしめた。