優しい手①~戦国:石田三成~【完】
その時三成は政宗と共に寺のすぐ傍で警戒をしていた。


「謙信を見張っておかなくてもいいのか?」


「…問題ない。第一干渉しないと決めた。桃は選べぬのだ。俺と謙信のどちらかを選ぶことができぬから…」


「おい、そこに俺の名がないが、気のせいだろうな?」


隻眼の男は半月の大きな飾りのついた兜を手に頂上から決戦の場となる平野を見据えた。

その先には、こちらに負けじと盛大にかがり火を焚いている信長の大群が見える。

一騎打ちと決めたのだから両軍が動くことはないだろうが…

頭を失った後乱戦になるかもしれないし、気構えは十分しておかなければ。


「今頃桃はあの男にいいようにされているのかもしれぬと考えたら、そなたの立場だったら俺はすぐさまあの場に乗り込んでゆくが」


「だから干渉しないと決めている。…桃が謙信の手を選ぶのならば、仕方ない」


――そして同じように寺の方向を一心に見つめている者が居た。


…清野だ。

誰が見ても謙信に惚れていることは明快で、儚げで消え入りそうな美貌を曇らせ、目が合うと振り切るようにその場から立ち去った。


「あれの処遇はどうする?」


「…桃が去った後は知らぬ。俺も尾張へ戻り、秀吉様をお支えするのだ」


「儂のことはいい。三成よ、本当にこれでよいのか?」


「!秀吉、様…」


すぐさま膝を折って頭を下げると、秀吉はからから笑い、三成の肩を叩いた。


「おぬしは傷つくこともずけずけと言うが、桃姫に対してはなりを潜めているようじゃの。素直になったらどうじゃ、“帰ってほしくない”と思っているんじゃろ?」


髭を撫でながら簡易の椅子に腰かけ、気難しい顔をしている三成に笑いかけると、代わりに政宗が口を開いた。


「皆がそう思っている。こ奴らは桃の意志を尊重するからと言いつつも納得してはいないのだ。ふん、つまらぬ」


謙信と三成の決断にずっと腹を立てていた政宗が陣から出て行くと、秀吉は再度三成の肩を叩き、促した。


「桃姫も“帰りたくない”と思っているはずじゃ。格好をつけて気取らず、素直に心情を吐露してみろ。桃姫も喜ぶぞ」


「…御意」


本当に…伝わるのだろうか?
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