優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信との一騎打ち対決になったことを上杉連合軍の全軍が知り、それでも兵の士気は下がらなかった。


味方の軍からは誰も死なず、死ぬのは織田信長のみ――


謙信が命の重みを大切にしながらも、織田信長の首を討とうと重たい腰を上げたのは、桃のため――


今まで側室も正室も要らぬ、戦は嫌いだと駄々をこねていた男が奮起したこと自体晴天の霹靂状態だったのだが…

桃を失えば…恐らく龍の牙が剥かれることは今後2度とないだろう。


――だが越後の民は全員が望んでいる。


“上杉謙信に天下を”と。


「さあ行こうか。あっちも動き出した頃みたいだしね」


「桃、こちらへ来い。俺の前に乗れ」


三成に両脇を抱えられてクロに乗せられると、だんだん不安が増してきた桃は少し吐き気を覚えながら状態を前に傾けた。


「どうした?気分が悪いのか?」


「うん…ちょっとだけ…」


「桃、これを貸してあげるよ。私の代わりだと思って持っておいて」


謙信が愛馬を寄せて桃に手渡したのは、いつも謙信が携帯している白い扇子だ。

そこからは謙信の香の匂いが漂い、少し安心すると吐き気が徐々に消えていき、後ろに乗った三成にもたれ掛った。


「少し楽になったかも…」


「手を握っていてやる。つらくなったらすぐに言え」


手綱に添えていた手に三成の大きな手が重なり、山を下ってゆく謙信の後を重臣らと兵らが続き、平原へと出た。


途中弓矢が襲撃の可能性もあっただろうに、謙信を先頭にした面々は何ら気負いもなく、無駄話をしている。


謙信には弓矢は当たらない。

もはやこれは伝説で、一刀も浴びたことがない謙信が神の化身だと信じているからこそ、今回の戦には勝利以外の結末を想像してもいなかった。


「見えてきたねえ。…おや?蘭丸が居ないけどどうしたのかな」


――晴天の中、左右に大きく広がった織田連合軍――

その中から一頭だけ抜け出てきたその姿を見た桃は、手綱を握る手に力をこめた。


「…案ずるな。そなたは俺が必ず守ってみせる」


謙信が対峙するは上杉謙信――

三成が対峙するは――
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