優しい手①～戦国：石田三成～【完】

謙信が信長を討った報は瞬く間に各国へと伝わって行った。

だが先日信長を討ったばかりの謙信たちはそれに気付くはずもなく、秀吉と茶々に桃がべったり張り付き、彼らを和ませていた。


「三成と別れるのはほんに悲しいことじゃが、あ奴が幸せになれる人生を歩んでもらいたい。のう、茶々」


「ええ本当に。三成が傍に居れば天下などあっという間に手に入ります。桃姫…三成をよろしくね」


茶々にお願いされた桃は団子を頬張りながら頷き、若干上の空だったために皆から笑われた。


「相変わらずよう食べるのう。儂の話をちゃんと聴いてくれていたのかやや心配なんじゃが」


「大丈夫ですよ、私が聴いていますから」


楽しそうに話を聴いていた謙信が答えると、三成が無言で深々と頭を下げた。

桃が答えないのに男2人が代わりに答える図は秀吉のツボにハマり、大笑いが部屋に響き渡った。

だが肝心の桃は何故笑われているのか分かっておらず、隣の謙信の皿に手を伸ばすとみたらし団子を攫い、媚笑いを浮かべた。


「さっきから全然食べてないし…貰ってもいいよね？」


「いいよ。ちなみにそこの堅物も食が進まないようだから食べてもいいんじゃないかな」


「え、ほんと？三成さん食べる？食べないなら私が…」


「…要らぬ」


三成がずい、と桃に皿を差出し、仲睦まじい光景にお腹いっぱいになった秀吉と茶々は笑い合いながら腰を上げて、桃がぽかんとして2人を見上げた。


「儂らは物見をしてから発つ故、失礼する。謙信公、実に見事なものを見せてもらった」


「え、え、え？もう…帰っちゃうの？」


ほとんど話もできないまま別れるのが名残惜しく、桃は上座から膝をついたまま降りると茶々の手を握って離さなかった。


「やだ！もうちょっと一緒に居て！あと1日！あと1日だけ！ね？ねっ？」


「ですが…」


「お願い！だってもう…会えなくなるかもしれないし…話したいことだって沢山あるし…謙信さん、三成さん！」


縋るような瞳で2人に呼びかけると、三成と謙信は顔を見合わせて肩で息をついた。


「というわけで。私の寵姫の願いを叶えてもらえませんか」


「誰が貴公の寵姫だ。“私たち”と言え」


またもや喧嘩が勃発し、今度は秀吉と茶々が顔を見合わせ、笑った。