優しい手①~戦国:石田三成~【完】
風呂で念入りに身体を擦り、白い浴衣を着た桃は人目を避けながら天守閣へと向かった。


誰にも咎められることがなかったのは、兼続が様々な手筈を整えてくれていたからだ。

…主君と親友との間で複雑な思いをしつつも便宜を取り計らってくれた兼続に感謝しつつ天守閣に着くと…三成は窓辺に寄って夜空を見上げていた。


冷静な横顔が月に照らされ、白い頬がさらに際立って美しく見える。

桃は三成の横に立って見あげながら手を握った。


「三成さん」


「…誰にも見られていないな?」


「うん、兼続さんが色々気を使ってくれたから。三成さんも真っ白な浴衣だね。お揃いっ」


「…今宵は初夜。そなたが俺の妻となる日だ。一献、交わそう」


「あ、あのね、昨日着た白無垢を着ようと思ったんだけど、やっぱり人目があって着れなかったの。ごめんね?」


「いや、実は人の目を盗んで祝言の時に一瞬見た。…美しかったぞ」


見つめ合い、肩に置かれた手にどきっとした桃が伏し目がちになると、桃をゆっくりと引き寄せて抱きしめながら、帯に手をかけた。


…床は遠い。

窓際ではいつ誰に見られるかわからないし、淡い月光に身体が照らされて、三成の視線に晒されるのも恥ずかしい。

桃が手を突っ張って胸を押すと、その手を心臓の上に押し付けられた。


「緊張しているのはそなただけではない。…俺とて同じだ」


「でも…ここで…?恥ずかしいよ…。だって…声だって…」


「大きな声が出そうになったら俺の肩でも腕でも噛め。…俺はここでそなたを抱く。床など必要ない」


熱い息が耳にかかり、一気に身体の力が抜けた桃を力強く抱き留める腕。

解かれてゆく帯と浴衣と、そして三成の視線に耐えられなかった桃は両手で顔を覆い、三成から隠した。


「…綺麗だ…桃…」


「一献…交わすんじゃないの…?」


「そんなのは後でいい。行くぞ、桃」


――この男がこんなにも情熱的なことを誰が知っているだろうか?

この男の、最期の女になれるだろうか?


身体を這う唇…大きな手…

何もかもが謙信とは違うもので、桃はうわ言のように三成の名を呼び続けた。


「三成さん…、三成さん…っ!」


「桃…愛している」


これから先も、ずっとずっと――
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