優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「兼続…私のやる気を削いでどうする」


「殿がお約束を反故するおつもりならば拙者とて三成とは無二の親友なれば…一切合財この件、喋ってしまいますぞ」


半ば脅し文句を笑顔で言ってのけた兼続にまんまと気を削がれた謙信はゆっくりと立ち上がると、
耳を手で押さえて顔を真っ赤にさせている桃ににこりと微笑み、手を振った。


「三成には内緒にしておいてね。では姫、また今宵会いに行くよ」


「え…」


「殿殿殿!桃姫は三成と同じ部屋でお休みになっておられます。殿が加わってしまえば…めくるめく世界が…!」


「え、三成と一緒に寝てるの?」


――ぽかんと口を開けて聞いてきた謙信に、桃は小さく唸りながら頷いた。


「…お化けが出そうで怖いから一緒に寝てもらってるの」


「何それ。じゃあ三成ではなくて私でも代用可能ってこと?」


「え、うーん…三成さんの方が…頼り甲斐があるかな…」


結構失礼なことを越後の主に言ってしまった桃だったが、謙信は別に気にした風でもなく襖を開けてまた手を振った。


「石田三成恐るべし。とりあえず姫は越後行きのこと、ゆっくり考えておいて」


「はい…」


――両親には会いたい。

オーパーツを見つけて一緒に帰れるのであれば帰りたいが、父の指輪の石は欠けている。


「桃姫」


謙信が去り、急に真摯な声で話しかけてきた兼続を見ると居住まいを正した兼続は深々と頭を下げた。


「殿は常に飄々としておられる方。姫においてはお困りになる点も多くございましょうが、何とぞ御容赦を…」


「困ってはないんだけど…ちょっと変わった人だよね」


桃の手を握りしめると、ずい、と近付いては声を潜めた。


「殿はいつになく本気。嫁は取らぬ、天下は要らぬ…今までその一点張りだったのです。ですが!桃姫がお傍に居て頂けるのであればその両方を殿は手中に収めることができましょう!姫、期待しておりますぞ!」


…言いたいことを全て言って、呆気に取られている桃を尻目に兼続も部屋を出て行く。


要は、あの二人は似た者同士らしい。


「…なんか疲れちゃった…」


そのまま横になると、睡魔が襲ってきて目を閉じた。
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