優しい手①~戦国:石田三成~【完】
酔っている三成には何もされたくない。


…ただでさえ前回の記憶が曖昧なのに、酔った勢いで愛されるなんて…


「やだったら!」


「…言っておくが…多少飲んだが酔ってはいない。桃…越後へは行かせぬ。そなたは俺の傍に居るんだ」


――三成に触れられると、本当におかしくなってしまいそうになる。


現にすでに押し倒されてしまい、至近距離で見つめてくる三成の怜悧だが真面目さが伝わってくる顔に桃は釘付けになってしまっていた。


「三成さ…手…手、離して…」


組み敷かれて両手の指に指を絡められて動きを封じられ、その身体の重みすらリアルに感じたのは…


全て、三成から経験させられた。


「また…泣いちゃうんだから…!」


「…それは困る。桃に泣かれるとどうしたらいいのかわからなくなる」


本当にそう思っていることがその困り果てた表情でわかった。


――だが…越後にはどうしても行かなければならないのだ。


…三成に反対されたとしても。


「私…謙信さんたちと越後に行くよ。でもちゃんとここに帰って来るから心配しないでね」


…心配しないわけがない。


これでは謙信のいいようにされるとわかりきったことなのに、桃にはまるでそれがわかっていないように見えた。


「…お父さんとお母さんが越後に居るかもしれなくてね…だから…」


「…そうか、わかった」


いきなりすくっと立ち上がると解放された桃は胸元を隠しながら起き上がった。


「怒ったの…?」


「いや…。だが少々屋敷を留守にする。部屋の前を幸村に見張らせておくから俺が戻るまで部屋から出るな」


――桃にはやはり三成が怒っているように見えてしょげたが…


三成は笑いながら肌身離さない愛刀を桃に手渡した。


「謙信が来たらこれで斬れ。いいな?」


「ふふっ、うん…」


部屋から出て幸村の部屋を訪ねると経緯を話し、そして幸村は桃の部屋の前に陣取って謙信を阻んだ。


「殿っ、幸村めが裏切りましたぞ!あ奴め」


「それより三成が動き出したね。尾張を捨てる気かな?」


育ててくれた秀吉を、裏切れるか?
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