優しい手①~戦国:石田三成~【完】
部屋を離れた兼続が桃を手招きして部屋から連れ出すと、耳元でこそこそと話した内容に桃は慌てふためいた。


「謙信さんが!?大変じゃんっ、私ちょっと様子見てくるね!」


「かたじけない!殿をよろしくお願い致しまする!」


心配そうな顔で深々と頭を下げた兼続に力強く頷いた桃が走り去ってゆくのを見送った後、兼続は蚊帳の外だった幸村の前に座った。


「さあさあ!今度は俺の相手をいたせ!姫の独り占めはまかり通さぬぞ!」


――謙信の部屋の前に着くと小さく襖を叩いて中に声をかけた。


「謙信さん、居る?…謙信さん?」


一向に返事がないので無断で襖を開けると…


謙信は床に伏せっていた。


「謙信さん…具合が悪いって兼続さんに聞いたよ。熱ある?お水飲みたくない?」


――確かにいつにも増して顔が白いような気がして、眠っている謙信の枕元に座った時…


「…姫?」


「大丈夫?環境が変わったから疲れちゃったのかな…きつくない?」


にこ、と弱々しく笑った謙信の声は低くかすれていて、桃はどきまぎしながら杯に汲んできた水を差し出した。


「飲むと楽になるかもよ、はいこれ」


肘をついて少しだけ身体を起こすと、杯を受け取らずに桃の手首を取ると引き寄せて水を口にした。


…よく出た喉仏が動き、少し乱れた胸元からは白い肌、そして鍛えられた様子の胸が見えて硬直した桃は、

しばらくしてようやく離してくれた謙信から慌てて少し距離を置いた。


「ありがとう姫。美味しかったよ」


「ど、どういたしまして…」


「何か汗をかいたみたいだ。姫、背中を拭いてくれないかな。手が届かないんだ」


「…えっ!」


――断る術が見つからず、かくかくと頷くと、謙信はゆっくりと浴衣を上半身はだけさせた。


肩から上腕…

流れるようでしなやかな美しい筋肉に釘付けになってしまった桃が思わず喉を鳴らしてしまうと、密かに笑んだ謙信が悩ましくため息をつきながらうなだれた。


「そうか…やはり駄目だよね。無理強いしてごめんね」


「あっ、ううん、私こそごめんねすぐに拭くから!」


謙信の罠に搦め捕られる。
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