契約恋愛~思い出に溺れて~
「……俺じゃ駄目なんだ?」
「……」
ぽそりと落ちてくる英治くんの声に、なんて答えたらいいか分からない。
湧きあがってくる涙を、堪えるので精一杯だ。
「やっぱり一人で帰る」
「紗彩ちゃん!」
涙交じりの声しか出ないのが悔しい。
私は追いかけてくる英治くんの声を振り払うように走り出した。
止まることのない激しい心音は、私に一つの事実を突き付ける。
英治くんは、代わりになんかならない。
だって、
頬を触れられた一瞬。
目の前のこの人の事しか、考えられなかった。