契約恋愛~思い出に溺れて~


「……やっぱりやめよう」


携帯電話を片手に持って、私は何度目かの溜息をつく。

今から考えれば、『お礼』と言えるような時期に一度電話をすれば良かった。
こんなに時間がたってからでは、今更なんて言っていいか分からない。

缶コーヒーを傾けて、それが空っぽになっていた事に気づく。

飲みかけたポーズが恥ずかしくて、小さく咳払いをした。


「……もう」


頭の中が一杯だ。

こんなんじゃ駄目だ。

ちゃんと集中して、早く仕事を終わらせなきゃ。

来月になったら年度末だ。

仕事もたてこんでくるし、紗優の卒園式とか謝恩会とかの準備だってある。

四月になったら部署移動になる社員だっている。
そのための資料のファイリングだってしなきゃいけない。


恋愛なんてしてる場合じゃない。

……そう、私が今更恋愛するなんて、おかしいに決まってる。


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