契約恋愛~思い出に溺れて~
『わかった。気をつけてね』
「うん!」
電話を切って、鞄を持って両親の部屋のドアを叩く。
「なあに?」
「お母さん。あのね。お願いがあるんだけど」
「え?」
「今から出かけてくる。どうしても彼に伝えたい事があるの。紗優が起きるまでには帰ってくるから……。だから、あの」
言ってるうちに声が小さくなっていく私に、母は苦笑すると手を上に伸ばして肩を叩いた。
「大丈夫よ。行ってらっしゃい」
「お母さん」
「子供みたいねぇ」
「ごめん。行ってきます」
クスクス笑う母に背を向けて、夜風の冷たい世界へと飛び出した。
大通りでタクシーを拾い、彼のアパートの住所を告げる。
流れる景色を眺めながら、彼にあったらどういう風に言おうかと考えていた。
こんな風に積極的に出る事なんて普段無いから。
呆れられたりしないかしら。
そう考えると少し怖いけど。
だけど飛び込んでみたいとも思う。