契約恋愛~思い出に溺れて~


 アパートの前にタクシーがついて、支払いを済ませ足早に階段を上る。

ドキドキする心音を落ち着けるために、ドアの前で一度深呼吸をした。

意を決して呼び鈴を押すと、手を離した瞬間にドアが開く。

驚きを隠せずに彼の顔をまじまじと見ると、いつもの柔らかい笑みが私を迎え入れた。


「いらっしゃい。入って?」

「は、早くない? 出てくるの」

「車の音がしたから。来たかなと思って」

「え」

「呼び鈴押されるの待ってた」


ぐいと手を引っ張られて、私の体が扉をくぐる。
それは思ったよりもあっさりと。


「手ぇ、冷えてるよ」


彼が急かすように私の手を引っ張るから。
慌てて靴を脱いで室内へ足を踏み入れる。

彼はスウェットの上下を着ていて、いつもとは違うラフな姿に見とれてしまう。

広がる煙草の匂い。

灰皿に置かれたままの一本が煙を吐き出している。

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