契約恋愛~思い出に溺れて~
私は、紗優の頭に手を伸ばして撫でる。
「嬉しいかどうか、確かめに行くから。紗優はいい子にしててね」
「うん! サユ、ちゃんとごあいさつできるよ!」
「はは。頼もしいな」
英治くんは私の手を一度掴んでギュッと握った。
「行こうか」
「ええ」
彼の力になれるような事を、うまく言う事が出来ない。
それがもどかしいけれど、結局は出来ることをするしかない。
さっきよりは力強い足取りで、彼が改札をくぐる。
その頃には、人の波は途絶えていて、彼の母親はこちらをじっと見つめていた。
近くで見ると、二人は目元がよく似ていた。
二人とも、同じような迷いを浮かべて、視線を交わし合う。
やがてお母さんの方が、ためらいがちに歩を進めて、1メートルの間隔を開けて立ち止まった。
「……英治?」
「か……」
上手く言葉にならないのか、彼はどもったように唾を飲み込んだ。