契約恋愛~思い出に溺れて~


 そして時は流れる。

6月には私の誕生日があった。
平日だったから、彼とは週末に祝おうと約束していた。

言えなかったけれど、その日はユウとの結婚記念日でもあった。


『絶対に忘れないように、誕生日に』


そう言って片目をつぶった姿が、今でも思い出せる。


紗優の名前といい、色々記念を関連付ける事が好きな人だったように思う。


紗優が眠った後、私は静かになった薄暗い部屋で、仏壇を開けてロウソクに火をつけた。

変わらない笑顔を向け続ける遺影の前にグラスを置いて、彼の好きだったビールをついでいく。

好きな銘柄は『ラガー』

おつまみは必ず『白菜のお漬物とミックスナッツ』

酔いが回り始めると『チーズをだして』
という。


忘れてない自分にホッとする。

多分、こうしてこの日を祝うのは、最後になると思うから。
今日だけはあの頃の自分でいたかった。
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