藍色の城
だから、あの日の夜は
傷付いたフリをして
キッカケが出来たと確信した。
姑息だとか、
やり方が汚いだとか、
どうでも良かった。
本能の赴くままに突き動かされる
ことが、恥じらいだとは思わない。
むしろ、自分に正直になれた
この瞬間が、
満たされた瞬間だから。
ただ、嘘偽りのない本来の自分に
目を背けられなかっただけ。
『いつも遅くまで居るから今日は
早くあがりなよ』と店長に言われた。
明日は休みということもあって、
少しでも長く、と
店長の労いの言葉だった。
有り難く受け止め、早めの帰路につく。
陽は飲み会で遅くなると言ってたし
今夜くらい、ゆっくりしようかなと
思った矢先、手を入れたポケット。
チャリンと音が鳴って、
取り出したのは鍵がいくつも
連なったキーホルダー。
その中に、陽のマンションの
合い鍵もぶら下がっている。