ディア・ロマンス
「ほら、呼んでみろよ。」
「加島くん。」
「暁。」
「加島くん。」
「暁!」
「…加島、」
「暁だっつってだろッッ!!!」
「……………暁。」
完全に、私の意志など関係なしに自分をファーストネームで呼んで欲しいらしい加島くん。
もうここまで暴君に抵抗の意志を働くことが面倒だ。
酷く重たく長い沈黙を置いて、溜め息混じりにそう呼んでやれば。
大人しく初めから言うこと聞けばいいんだよ、とでも言いたげに。満足そうに口角を引き上げた。
「(…てか、)」
私は視線を逸らし、店内をぐるりと見回した。
……あーあ。
店内にいる客の全員が「え、何あれあの店員さん不良に絡まれてるの?やばくない?警察呼んだ方がいいのかな?」みたいな目で見てるじゃないか。
まあ、ただ1人例外もいるのだが。