バニラ
「ああ、いらっしゃい」

マスターの声に、お客がきたんだと言うことを知った。

誰だろう?

あたしはテーブルに突っ伏していた顔をあげた。

男の人だった。

ふんわりとした黒髪と、黒ぶちの眼鏡がよく似合っているスーツ姿の男だった。

「マスター、久しぶりです」

そう言って彼は、あたしの隣に座った。

常連さんなのかな?

「ん?」

彼が隣に座っているあたしの存在に気づいた。

「初めて見るね」

そう言った彼に、
「――あ、はい…」

そう言えば、彼の顔を見たのは初めてだったなと思った。
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