バニラ
「わからないんだったら、会社の前で待っていてあげようか?」

「えっ、いいわよ!」

あたしが断ったら、恭吾はクスクスと笑った。

「じゃ、待ってるから」

言い終わったのと同時に、ガチャッと電話が切れた。

「待ってるって何よ、待ってるって」

忠犬ハチ公じゃあるまいしと、あたしは心の中で毒づいた。

「いや、あいつはどちらかと言うと猫だけど」

毒づきながら、あたしは恭吾に携帯電話を届けに行く準備を始めた。


恭吾の会社へ携帯電話を届けに行くと、
「…あれ?」

そこに恭吾はいなかった。

会社の前で待っているって言ったのに、一体どこへ行ったのかしら?

キョロキョロと首を動かして周りを見回していたら、
「よっ」

恭吾があたしの前に現れた。
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