銀杏


財布だけを持って母は家を出た。

咲はお絵かきをしようとテーブルに紙を広げた。
「お花畑でぇ、いっぱいお花が咲いてぇ、お母さんとぉ、サキとぉ、…タケルくんとぉ、タケルくんのおばちゃん…。」

大きな車のブレーキ音と何かがぶつかる鈍い音。

しばらくすると救急車の音が聞こえて、咲は何とも言えぬ恐怖感に襲われた。

お母さん、まだかな。

静かな家の中は掛け時計の規則正しい音だけが響く。

その時、尊のお母さんが真っ青な顔をして飛び込んできた。

「咲ちゃん!咲ちゃん、お母さんが…。」




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